※当記事は1996年3月30日に日本経済新聞にて掲載された内容を抜粋したものです。
ビタミンCをガン細胞に取り込ませ、がんをやっつけようという研究が進んでいる。大量のビタミンC投与でがんを治す試みは以前からあったが、ビタミンCは服用しても細胞内にまで入り込みにくいために期待されたほどの効果は上がっていない。最新の手法は、ビタミンCに手を加え細胞に取り込ませやすくして利用する。(後略)
ネズミの寿命2.5倍
ビタミンCが細胞に取り込まれないのは、油に溶けにくいからだ。
細胞を囲む細胞壁は油の一種でできている。
ビタミンCに別の物質をくっつけてやり、油に溶けるようにすると細胞膜をするりと通り抜ける。広島県立大学生物資源学部の三羽信比古教授は、そうやって改造したビタミンCによるガン治療を試みている。
油溶性になったビタミンCをおなかの中にがん(腹水がん)があるネズミに投与したところ、ネズミの寿命は、投与しない場合の2.5〜2.8倍に延びた。がんが縮小したネズミもいたという。
ビタミンCにはがんの転移を抑える作用もあるらしい。
三羽教授らが冨山医科薬科大学などと共同で実施した実験では、ネズミのメラノーマ(悪性黒色腫)というがん細胞に大量のビタミンCを取り込ませると、がんの転移をある程度防げることがわかった。
がん細胞がつくる特殊な酵素の合成をビタミンCが防げ、がんが威力を拡大するのを防ぐ。(後略)
温熱療法と併用も
ビタミンCを別の治療法と組み合わせる試みもある。
大阪市立大学の蔭山勝弘講師らは、培養したがん細胞にビタミンCを取り込ませ、セ氏42度に温度を上げると殺傷効果が上がることを確認した。
がん細胞にビタミンCを取り込ませた後、マイクロ波を照射してやっつける温熱療法が考えられているという。
(前略)ビタミンCは新鮮な野菜や果実、緑茶などに多く含まれている。生体内に生じる有害な物質を捕らえて消したり、細胞の分化や増殖を抑制するなどさまざまな作用を持つ。
重要な物資だが、人間やサルなど霊長類は体内で合成できないため、食物から摂取しなくてはならない。
ビタミンCの能力を利用してがんを治す試みは以前からあった。
アメリカのノーベル賞学者、ポーリング博士らはがん患者にビタミンCを大量に投与してがん細胞にダメージを与えるいう治療法を考案、提唱した。
ひところブームになったが、劇的な効果は表れなかった。
「初期消火」に効果
現在ではビタミンCをそのまま与えても、壊れやすいうえに細胞内に入りにくい欠点があって、効果は期待できないと考えられている。
ビタミンCをせっせと食べてもがんが治せるわけではないのだ。
首尾よくがん細胞内に潜入させられれば、効果がある。そこを狙った研究が活発になってきたわけだ。
食べるビタミンCでは、治療よりも予防効果の方が期待できる。
がんを引き起こすもとになる有害な「フリーラジカル」を減少させる効果があり、がんを「初期消火」できるからだ。
紫外線がもたらす遺伝真の傷もビタミンCによって抑えられることも知られており、皮膚がんの予防につながるとされる。
現代人は喫煙、食品添加物、ストレスなどでビタミンCが不足しがち。
「ビタミンCは1日1.5mg程度摂った方が良い」と専門家は言う。(後略)
※このコンテンツは当時の記事を抜粋していますので、最新の情報ではありません。